花シリーズ 

合歓

【あずさの場合】

あなたと巡り合えた。
私の想いはやっと届き
私の夢はやっと叶い

午後のティータイム

私が貴方を愛しています

床を漂うモーツアルトの「フアンタジア」が足先から這い登り
体をスッポリ包み
私の心は 溶け出して
私の体は 宙に浮く


私が貴方を愛しています

喜びと幸せが満ち溢れ

瞳を閉じて その中で、しばし まどろんで
戸惑うほどの貴方への想いに まどろんで
夢の浅瀬で まどろんで

私が貴方を 愛しています.....
    私が貴方を 愛しています.....
       わたしが  あなたを.....
          わたしが . . . . .わたしが. . .


花言葉  歓喜 胸のときめき



フナバラソウ

【くみこの場合】

さようなら
もう、だめです
年だけは重ねていても 心が老いてくれません
大人になれないままの まだ何処かに大事にしていたい部分の心が残っていて
上手く嘘がつけません
上手く嘘を受け止めることが出来ません

寂しい部分だけを、必要なときにだけ埋める 隙間埋めの女・・・
その一人でいいと思っていたのに
あなたを知るほどに愛してしまい
別れた後の苦しさに耐えることが出来なくなりました

一人になってチョコレート色の血を流し
やがて、この切ない恋が
あの大きな種となり思い出となって地に着くまで
私は風の中で揺れ続けていることでしょう

さようなら
もう、だめです

花言葉  知りません


節分草

【静子の場合】

お母ちゃん
今日、荷物届いたよ ありがとう

ごめんな お正月、今年も帰れなくて...
そっち雪 どうね?
膝の痛みは? 腰はどうね.....
ごめんな なぁ〜んにもしてあげれんで

お母ちゃんが誰にも頼らんと、たった一人で私を育ててくれたこと
本当に感謝してる

寒い、寒い夜
二人一緒の布団の中で いつも
私の足をお母ちゃんが太腿の間に挟んで暖めながら
「もうすぐ春くるで ほら、耳を澄ませてみ 聞こえんか?
 雪の下で春の卵が生まれる音
 そしたらだんだん暖こうなって...花が咲いて... ... ... ..」

の、話の途中でいつも私、寝てたな

お母ちゃん一人残してこの街に来て3年
頑張ってる・・・
やっぱ、お母ちゃんの子や 人に頼らず意地だけで頑張ってる

そっちではそろそろ節分草が咲く頃やね
この街に押しつぶされそうになった時
あの花を思い出して 歯を食いしばって腰を上げるんや

しばらくは帰れそうにも無いけど 安心してな
頑張ってるから 安心してな

花言葉  人間嫌い


蓮華

母は何の夢を見ているのだろう?
冬の柔らかい日差しに包まれて、ベットの中でとても穏やかに寝入っている

昔は私にとっては目の前の壁であったり.....ある時は欝陶しい存在だったり.....
何事にも前向きで、目標を定めるとコツコツと目的達成まで努力する人であった
対極にいるような私とは 事あるごとにぶつかった

そんな母が父の最後を看取ってからというもの
急激に体調を崩し寝込むようになってしまった
「みんなが待ってるわ」
目が覚めると決まっては母そう言って ほっこりと笑う

「私がね おままごとをしていると、かあさんが呼ぶのよ
  そろそろ帰りなさぁ〜い 日が暮れたわよ〜って」

現実と夢の中を行ったり来たりしている母が
細い、細い指を口元に当てて笑う


*蓮華

花言葉  あなたは幸せ 心が和らぐ



吾亦紅

【千花の場合】

千花は何度やってもクリアー出来ないソリティアを
先ほどから機械的にカードを配り変えては 一人ゲームを繰り返している
目はトランプの数字を拾っているが、頭の中は
昼間 裕子が言った言葉が厚い雲のように覆っていた

「森君て、真知子が好きなんだって〜
 彼 わがサークルのスターよね
 誰も彼もが森君、森君って 気分悪いけど
 実際にいい奴だし モテルのわかるわ・・・」


いつまでもあがれないゲームを投げ出し
窓の外を見ると 幾分空が高く感じられて
何かに置いていかれたような気がして 少し不安になってくる


森さん・・森さん・・・
多くの花の中で 目立たなくても私は貴方を想って 今を咲きます
気付いてくれても くれなくても私なりに咲きます
この青春の一季節を 貴方を想って・・・・・


  *吾亦紅  花言葉 慕情   バラ科


彼岸花

【摩耶の場合】

最後の客を送り出し、店の明かりを落して摩耶は一人
カウンターでブランディーグラスを両手で温めている

(・・・・・帰りたいなぁ〜・・・)

帰ったところで故郷には待つ人とてなく 家さえも今はない

このネオンの街で泳ぐように生きてきた摩耶
本気で惚れた男もいた
裏切りも、争いも、計算も、嫉妬も、執着も・・
あらゆる波に揉まれながら
沈んだり 浮き上がったり 流されたりしながら
細い止まり木にしがみ付いているような現在

グラスに写る自分の顔をしみじみと見つめながら 摩耶は思う
私は何処へと流れていくのだろう?

店の壁に一枚の写真が 真っ赤な火の塊のような彼岸花の写真が・・・


きつねのかんざし はなちょうちん ちんちんどうろう おみこしさん
かじばな ひぐるま はなびばな
きつねのたいまつ のだいまつ
ふでばな じゅずばな いかりばな
どくばな へびばな いちじばな
おばけ かったろ みちまよい
ひりひりかっこ したまがり きつねのかみそり はなしぐさ
いっぽんかっぽん ちんからぽん・・・・・


夜の底にどんどんと沈んでいくような 小さな店の片隅で
摩耶は子供のように 涙を手で拭き殴り
ひとり 花の呼び名を繰り返す。

花言葉  悲しい思い出


サラシナショウマ

【翔子の場合】

これといってお洒落をしているわけでもないのに
こざっぱりして、いやみなく清潔感がある

やたら愛嬌を振りまくわけでもないのに
一緒にいると 心が弾む

昨日あって、埒もない長話に付き合ってくれて
もう話すことなどないのに 何故か今日も逢いたい

そんな女が時としている
翔子がそうだ
特別な自分色を持たず すぐに相手の色を理解し
相手を包み、相手に寄り添い、相手の心の紐を解く

・・・だが、皆と別れて一人になると
棺と化したベッドに横たわり
真っ白い肌を月明かりの中に投げ出して 明日のため
生と死の間に潜り込んで 静かに・・静かに・・・眠る

翔子は寂しくはないが 少し優しすぎる そんな女です。

 サラシナショウマ

花言葉  雰囲気のよい人




ママコナ

【由美と真美の場合】

「もぉ〜 ほら、由美!お口にご飯粒つけて・・・」
『えっ、ほんと?・・そういう真美だってクリームチーズ垂れてるよ』

二人は一つ違いの姉妹

「ね〜由美 彼とは上手くいってるの?」
『この前 美味しくないから別れた!真美はどうなのよ』
「・・・わ、私は彼のため 彼の夢のために別れたわ」
『またぁー 真美の話って原型を留めないくらい事実と違うんだから
 情報ではデートでバイキングの途中 彼、姿を消して それっきりて、言うじゃない
 どういう神経と胃をしてるのよ 信じられない』
「・・・どうして貴女ってそういう言い方しか出来ないの 悲しい
 あっ!それ私のじゃない 食べないでよ〜」

サイドボードの上に二人の写真が

視界の中に入ったその写真を見て由美が
『あの頃は結構 いけてたね 私たち』
「だってあの頃私たち二人とも40キロ前後の体重よ
 それがこの数年で12キロも増えて 60キロ台・・・」

・・・・・計算が合いません!・・・

この姉妹の座右の銘  [恋より団子]

 ママコナ

花言葉  満腹(花言葉がなかったので勝手にイメージしました)(-_-)zzz


マツムシソウ

【典子の場合】

私は本当に幸せだったのに・・・
あの人が 大好きでした

甘えるばかりで何もしてあげることが出来ないまま
いじけたり、すねたり、疑ったり
やきもちばかり焼いて いつも困らせてばかりでした

『嫉妬』 嫉の疾は病気
     妬は、女の心が石になること

あの人の愛 全部がほしかった
ただそれだけで あの人だけを見つめて生きてきたのに
神様は焼きもちをおやきになったのだろうか?
突然 私からあの人を取り上げてしまわれた

何をどうしていいのかわかりません
あぁ〜
あの人と一緒 それだけで本当に幸せだったのに・・・
あの人がいない
そのことが私にとって 一番不幸なことだと今気付きました

 マツムシソウ

花言葉  未亡人 私は全てを失った

トリカブト

【小夜の場合】

俺が小夜と出合ったのはいつの事だったのか、今となってははっきりしないし
どうでもいいことのように思える
だが、小夜はいつの間にか俺の中に咲いてしまった

掴み所の無い不思議なその女を なんとか自分だけのものにしようと
その女の中に入っていくたびに 何かをひとつずつ無くしてゆく俺

時も、金も、地位も、名誉も、世の常識も、家族さえも・・・
今や残っているものは命だけとなってしまった
だが俺には分かったいる
いつの日かこの命を持って 彼女に逢いに行くことが

その残された最後のものを手渡した時 初めて彼女を我が物とし
永遠の安らぎを手に入れることが出来るだろう
あぁ、それは何時のことだ?
明日か?1ヵ月後か?一年後か?
きっとその女は
妖しい輝きを放ち、俺が来るのを微笑みながら待っているはずだ

トリカブト

花言葉  人間嫌い 美しい輝き 敵意


ウメバチソウ

【朋子の場合】

ねぇ〜 朋子ぉ〜
いい加減にもう、目を覚ましぃな
いくらアンタが彼のことを思い続けても、彼はアンタのもんにはなれへんのやし

そら、彼かて男や
恋はするわなぁ それも次々にな
けど 男の恋は 恋は恋で終わりや 愛してはもらわれへんで
愛してもらえるんは家族だけや

ほら、言うやんか〜
「愛は真ん中 心  恋は下心」ゆぅ〜て
いっつもアンタは それでもええ
しょうがないんよ 好きになってしもうたんやけ
彼と出会えたことが幸せ
好きでいられるだけで幸せ って・・・

それ、幸せ ちゃうやん
彼に振り回されて 都合のええ女やん 自分はないのんか?
って これ、何回同じ事言わすん?
またそんな顔してから
難儀やなぁ〜  どないかならんもんやろか・・・

花言葉  いじらしい

 


薔薇

【響子の場合】

彼女は鏡の中の自分に問いかける

私はこれまで、本気で人を愛したことがあったのだろうか?
私はこれまで、本気で人から愛されたことがあったのだろうか?

幼い頃から美しく生まれた彼女は
誰からも愛され、選ばれ、嫉妬され・・・
気付けばいつも高みで孤独であった

ひとりの男に取りすがって泣くでもなく 待つでもなく
傍を通り過ぎる人たちは眩げに彼女を見て 消えて行った

・・・・・
  ・・・・・・・やがて時は流れ・・・・・

ドライフラワーと化してしまった彼女は今も美しく
鏡の中の自分に問いかける

私はこれまで、本気で人を愛したことがあったのだろうか?
私はこれまで、本気で人から愛されたことがあったのだろうか?

薔薇

花言葉  愛 美 嫉妬


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